
スポーツブランドの共創DXプロジェクト
ミズノさんにTAM社長が聞いてみた(前編)

大手総合スポーツメーカーのミズノ株式会社さんと、TAMの取り組みは2019年から。市場調査をはじめ、商品のネーミングやコンセプトの考案、売り場づくりやキャンペーンの実施まで、様々な企画や施策を、共創型で一緒に考えるところから支援させていただいています。
スポーツの現場やアスリートと関わりながら商品やサービスの開発をしているミズノさんは、デジタルに何を求めたのでしょうか?
前編は、グッドデザイン賞受賞*の高校球児向けスパイク企画開発者である田林さんとマーケティング課の横山さんに、TAM社長が聞きに行きました。
——田林さんは元・智弁和歌山高校のエース投手で、甲子園準優勝の経験をお持ちとのこと(!)。今回は一緒に野球場へ行ってお話をしています。
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- ミズノさん
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- 田林正行さん/クリーツ企画課*
- 横山加奈さん/マーケティング課
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- (*取材時。2022年9月にマーケティング課に異動)
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- TAMメンバー
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- 爲廣慎二/代表
- 飯田健/プロジェクトリーダー
- 撮影:藤山誠、編集:佐藤佳穂
*下記のスパイクがグッドデザイン賞を受賞しました。*
2022年度受賞 スピードレボエース プロ
2021年度受賞 ライトレボエリート
高校野球に「デジタル」は要らない・・・?

TAM代表 爲廣(以下、ため )
「高校球児向けのマーケティング」というと、ターゲットが明確で興味深いです。野球少年達はスマホは使ってるんかな?とか。いやボクの時代とは違うから、そりゃ使ってますよね(笑)。
TAMにご依頼いただいた頃、デジタルマーケティングのどんなところを課題に感じられてましたか?
田林さん(ミズノ)
まさに、僕は自分も野球をしていましたから、「野球」はやるのも観るのも「実際の体験」が重要という強い思いがあって。デジタルの取り組みはどうしていくべきかな?と思っていたところだったんです。
僕は商品開発側なので「デジタルマーケティング」というとパソコンに向かって分析して、みたいなイメージで。正直あまりわからない世界で、課題を見つけるまでも至っていなかったかもしれません。
横山さん(ミズノ)
今までもWebサイトやSNSで発信はもちろんしていたのですが、それがちゃんと高校生のユーザーに届いているのか、響いているのか、は確証が持てていないところがありました。
ため(TAM)
なるほど〜。そこに外から飯田君みたいな小僧が現れて、うっとうしくなかったですか?
飯田(TAM)
小僧って(笑)。
田林さん
うっとうしくはないですけど(笑)。馴染みのない世界でしたし、はじめは「信じていいんかな?」という思いはありましたね。
でも机上でスマートにやるものと思っていたら、飯田さんが現場に通う回数がとにかく多くて。思っていたのとはちょっと違いました。
飯田
高校球児の生活とかニーズとか、僕もわからないことだらけでしたので。最初は市場や商品をしっかり知って、まずはミズノさんの理解に追いつこうというところから始めましたね。

ため
たしかに飯田君はいーっつも出かけとったもんな。「お前それで利益でるんかい!」言うて。心配してました(笑)
飯田
茶屋町*にも最初は名乗らず通っていたのですが、通いすぎて店員さんに怪しまれてしまって。途中で身分を明かしました(笑)
*ミズノの旗艦店である「ミズノオオサカ茶屋町」のこと*
田林さん
あっという間に商品のこともすごく詳しくなっているし、現場のことも、こっちが言う前に調べてくれている。そこに感心して、信頼感につながりました。いまはもう「TAMの人」ではなくて「ミズノの飯田さん」という感覚です。
ため
お〜い!ちゃんと帰ってきてくれな。
いやしかし、すばらしいことですね。

ものづくり、マーケティングのヒントは現場から
飯田
現状を知るために、まずは野球をしている高校生にインタビューやアンケートをしました。
マーケティング課の横山さんと手分けして、関西・関東の様々な高校を回りましたね。
横山さん
強豪校から一般的な野球部まで、20校くらい回って。大阪から関東に行って日帰りで戻ってきた日もありましたよね。高校だけでなく店舗にも足を運びました。
ため
それはタイヘンですね〜
田林さん
僕は現場の声が一番大事だと思っているので、共感できました。
メーカーの「こういうものを作りたい」でなく、現場の「こういう動作、こういう仕草があるから」からものづくりが始まると思うんです。それは高校野球に限らずだと思っています。

飯田
現場で高校生と話したおかげで、「店頭」の重要度を実感できたのも良かったですね。意外と高校で「スマホ禁止」とかあったりして、思ったより「お店に来て」選んでいる。
ネットを見るにしても、メーカーのサイトよりはSNSを見て判断していたりとか、そういうこともわかって。コミュニケーションのアイデアにつながっていきました。
田林さん
インタビューを自分たちでやったプロセスがなければ、今も「ウェブサイト」の周辺だけでデジタルを考えていたかもしれません。
横山さん
結果的にはウェブサイトも、以前のページと比べて月間PVが4倍ほどになったんですよ。
利用者である高校生の生活スタイルをちゃんと見て考えたら、こんなに変わるんだと思いました。

データからの発見が、社内の意識を変える

ため
デジタル上で結果を出そうと思ったら、デジタルの中だけで考えていては不十分ということですね。当たり前のようで、いざやろうとすると忘れてしまう大事なことだと思います。
具体的には、どんな流れで進んでいったんですか?
田林さん
今回は「とにかく軽いスパイクをつくろう」と大枠だけ決まっていたプロジェクトを、商品企画の段階からTAMさんと一緒に、いろんなことをやりました。
飯田
そもそも「軽さ」は本当に求められているのか?を調査して確かめることからスタートしました。
高校生がスパイクに求めるもの、ミズノに期待するところが見えてきてから、『ライトレボ』『スピードレボ』というネーミングを考案したり、球場を予約して動画の撮影をしたり、スパイク全体のラインナップの見せ方を考えて店頭の什器やPOPも提案したり。
ため
へ〜、ネーミングや店舗什器まで!
正直に言って、もともとTAMの専門ではない分野です。それを信頼して任せていただけたのは、なぜなんでしょうか?

田林さん
飯田さんの熱意もありますけど、ちゃんと「生の声」を聞き出してくれたことですかね。
たとえば僕らが「ミズノの者です」といってインタビューすると、「忖度」じゃないですが、ひいき目の回答をいただいてしまったり。みなさん野球が好きで、ミズノのことも知っていますから。
ため
え、飯田君は何て言ってインタビューしているの?
飯田
「野球業界の調査をしている者です」と・・・。
ため
ただの怪しい奴やないか!逆にミズノさんに迷惑かからんようにしてな(笑)

横山さん
でも「肩書き」の工夫だけでなく(笑)、インタビューではバイアスをかけないようにとか、潜在的に思っていることを引き出すとか、奥が深いな〜って。飯田さんのやり方をみて、ミズノ社内のメンバーにも共有させてもらってます。
田林さん
実際このプロジェクトをきっかけに、社内でもものづくり側と伝える側の関わりに変化がありました。
営業や得意先から「製品を伝えやすくなった」と言ってもらえたり、他の製品の部署から「ウチもスパイクみたいにやってみたい!」と意見がでたり。
ため
それはすごい。ほんまの話ですか!? これ「忖度」ちゃうかな(笑)

田林さん
一方的な思いでものづくりをしているのではないか?と、企画側も営業側もどこか疑問があったと思うんですよね。
でも今回、定量調査や定性調査の結果を可視化して、商品やマーケティングのカタチにしているので。それを見て考え方も変わったんだと思います。
ため
共通の「信じるもの」を可視化できたのは大きいでしょうね。
見えないと共通認識になりづらいですからね。(笑)

田林さんが考える、野球のこれから

ため
田林さんは今後どんなことをしたいとお考えですか?
田林さん
僕は「プレー中の怪我をなくしたい」という目標があります。
軽さにこだわるのもそのためですし、あとはスパイクの「金具」をなくしたいと思っています。
ため
野球のスパイクといったら金具のイメージがありますよね。
金具が人に当たると、怪我をする恐れがあるということですか?

田林さん
接触で相手に怪我をさせる危険もありますが、履いているプレーヤー自身にとっても、金具は突き上げ感があるので足に負担がかかりやすいんです。
サッカースパイクは金具がついていないものが主流なので、そういう部分からも怪我がなくなる世界をつくりたいですね。
ため
ただ「売れるため」じゃなくて、高校生のプレー人生まで考えておられるのが田林さんらしいですね。すばらしいです。
これからもぜひTAMで応援、お手伝いさせてください!
田林さん
高校野球で選ばれつづけているのはミズノの財産なので大事にしつつ、今後は草野球などにもさらに注力して、野球のたのしさや価値を伝え続けていきたいです。

田林さん、ありがとうございました!これからもよろしくお願いします。
後編ではミズノオオサカ茶屋町にお邪魔し、事業企画販促部の長岡部長にお話をお聞きします。

ホワイトモデルは2021年度グッドデザイン賞を受賞。

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