
スポーツブランドの共創DXプロジェクト
ミズノさんにTAM社長が聞いてみた(後編)

大手総合スポーツメーカーのミズノ株式会社さんと、TAMの取り組みは2019年から。市場調査をはじめ、商品のネーミングやコンセプトの考案、売り場づくりやキャンペーンの実施まで、様々な企画や施策を、共創型で一緒に考えるところから支援させていただいています。
メーカーとして、ものづくりの品質にこだわりと自信をお持ちのミズノさんが、TAMとの取り組みに求めたものは何だったのでしょうか?
後編はミズノダイアモンドスポーツ事業部 事業企画販促部 部長の長岡さんに、高校球児向けスパイク、キャッチャーミットのプロジェクトや、ミズノが提供する「価値」について、TAM社長が聞きに行きました。
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この記事は全2回の[後編]です→ 前編から読む
——ミズノさんの商品がずらりと並ぶ旗艦店「ミズノオオサカ茶屋町」で、TAMも関わった商品に実際に触れながらお話しています。
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- ミズノさん
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- 長岡一郎さん/ダイアモンドスポーツ事業部 事業企画販促部 部長
- 横山加奈さん/マーケティング課
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- TAMメンバー
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- 爲廣慎二/代表
- 飯田健/プロジェクトリーダー
- 撮影:藤山誠、編集:佐藤佳穂
野球愛とマーケティングの間

ため(TAM)
ミズノさんはスポーツの中でも野球のイメージが特に強いのですが、社員の皆さんはやっぱり野球がお好きなんですか?
長岡さん(ミズノ)
会社では高校野球がテレビで流れていますし、誰がどのグラブを使っているか、いつもチェックしているんですよ。ミズノが映ると「よしっ!」って思います(笑)。
ミズノでは「品質だけは絶対に負けたらアカン!」といつも言っていて、自信も持っています。ミズノの製品で、スポーツの価値を最大限に引き出したい。
同時に、「価値」とか「品質」ってデジタルで伝えていくのが難しい気もしていて。
それでTAMさんにご相談したわけです。

ため
なるほど〜。愛とか熱量とかを、伝えていきたいですよね。
飯田君は、野球はやったことあるんやんな?
飯田(TAM)
いえ僕は、実は観戦すらあまりしたことがなくて……
ため
あかんやろ!(笑)。それでよくミズノさん通えたな〜
長岡さん
我々も正直、野球が大好きで詳しい方が担当で来るんだろうな〜と思ってましたからね。
ちゃうんかい、と(笑)
僕自身は、小中高大と野球をずっとやってきて、今は休日に小学校のソフトボールの監督をやっています。野球は常に身近にありますね。

ため
ミズノさんについていくのに必死で勉強して、日本全国の高校球児に会って回ったり、「ミズノオオサカ茶屋町」にも店員さんから怪しまれるほど通っていたそうなので(前編参照)。勘弁したってください。
長岡さん
(笑)
逆に僕らミズノの人間は、野球愛が深すぎる分、「当たり前」になって見えなくなっていることもありますからね。今回TAMさんと一緒に取り組んでみて、気づかされました。
ずっと「現場」は大事にしてきたつもりですけど、それも「ミズノの」視点で見るだけになってしまっていたり。

取り組みを、別商品にも展開
長岡さん
TAMさんと取り組んだスパイクのプロジェクトを見て、社内の他の製品の部署からも「自分たちもやってみたい!」と声が上がりましてね。それはぜひ「やれやれ!」と。
別の商品でチャレンジしてみたのが、キャッチャーミット「號(さけび)」プロジェクトです。

ため
おお〜!それはすばらしいですね!
TAMとの取り組みを、ミズノさん内部で一定の評価いただけたということですし。
「やってみたい」「楽しそう」と思っていただけたのなら、何よりうれしいです。
苦労された点などはありますか?
長岡さん
先程の「野球愛」の話と同じで、やはりメーカー側の常識にとらわれてしまったり、メンバーからの報告を聞くと、意外と難しいことだと感じましたね。
横山さん(ミズノ)
印象的だったのは、飯田さんからアドバイスをいただいて、今回まず「社内の声」を聞くことから始めたんですよね。そうか自分たちも「現場の声」であって、聞くべき対象なんだ…とハッとしました。
飯田
共創型プロジェクトの基本の流れで、まずは社内の関係者が問題・課題に感じていることを集めて、それからユーザーヒアリングに向かいます。
ユーザーに漠然と「どうすればミズノを買おうと思いますか?」と聞くと、プロダクトの改善要望や、「良い商品だと思うので特に何も…」って言われたりするんですよね。
もちろんそれも大切な情報なんですが、ブランディングやプロモーションのための「ヒント」がほしければ、そのための質問を用意する必要があると考えていますね。

横山さん
最初に社内から問題・課題を集めたことで、「ユーザーに何を聞かないといけないのか」が見えて、プロモーションのコンセプトにつながるヒアリングができましたね。
課題を整理する「PGST」*も、スパイクの共創プロジェクトを思い出しながら、社内でまとめてみたんです。
ため
プロジェクトの課題は「自分が一番わかっている」という気になっていても、インタビューや会話で、発見がありますよね。僕もいつもTAMの経営について、社内のみんなから「本当にそれが課題ですか?」って素朴な問いかけから気付かされたり。
自分で自分のことを知るのは、なんであんなに難しいんですかね。
*「PGST」・・・目的(Purpose)、目標(Goal)、戦略(Strategy)、戦術(Tactics)を共有する、TAMの文化とも呼べる独自のフレームワーク。社内やクライアントさんとのプロジェクト、個人の年間目標を立てるのにも活用しています。*
長岡さん
ほんとですね。
さんざん社内ですったもんだ苦労した後(笑)、具体的な施策内容とかクリエイティブとかは、TAMさんにまた入ってもらって。
ホームベースから大声でチームを引っ張るキャッチャーを表した「さけび」というネーミングもTAMさんと一緒に考えたものです。漢字の「號」をミットに刻印しています。
おかげさまで初動は市場から売切れになるほどで、順調に進んでいます。
最近は、世の中に伝えていく方法がたくさんあるので、どんな商品でもマーケティングがしっかりしていればある程度は売れる。でも本当の価値がなければ、長期的には売れないですよね。
飯田
YouTuberが一回配信したら数十万人に広がったり、Twitterで「なにあのグラブ?」と一気に話題になったり。そういう可能性がある一方で、一瞬で消えていく商品も多いですよね。
長岡さん
今はWebで簡単に情報を得られますが、不確かな情報や思い込みも多く、真実はちがうこともあると思います。店頭、チームの監督、学校……すべての現場で直接聞いた真の情報の中に、伝えるべき価値があると思っているので、やっぱり「現場の声」なんですよね。

埋もれる時代の価値の伝え方、売り方
長岡さん
僕は野球でガッツポーズする瞬間が好きなんですが、爲廣さん、最近ガッツポーズってとられます?
ため
日常の中でガッツポーズすることって、意外と少ないですね。
僕はヨットレースがうまいこと行ったときはガッツポーズしますね。
飯田
僕も仕事とかでは、あまりしないですが。この前ハーフマラソンを完走したあとは、思わずガッツポーズがでました。

長岡さん
ですよね。自然とガッツポーズが出るところが、野球や、スポーツの良いところだと思っています。
こういうのも、ひとつの「価値」ですよね。
僕らは、ミズノが長年培ってきた、商品、品質には絶対の自身をもっています。でも、まだ自分たちが気づけていない価値もたくさんあると、最近よく思うんです。
横山さん
店舗にプロ野球選手のサインがずらーっと並んでいるのとか、社内だと当たり前ですけど、入社した頃「すごいな!」と思いました。
ため
ミズノさんは商品開発以外の取り組みも、色々されていますよね?
長岡さん
そうそう、「ドリームカップ」という少年野球の大会を開催するのですが、ありがたいことに想像以上の参加チームや協力団体・企業が集まったんですよ

ため
それだけ人が集まること自体がすごいですが、参加して野球をする子供たちの、それぞれの思い出になって、というのも大きな価値を生んではりますよね。
長岡さん
価値を「つくろう」と考えてしまうことが多いのですが、もう今あるんですよね。
今はものが売れる時代ではなく、情報ばかり多くて「埋もれる時代」。
埋もれてしまわないように、価値の伝え方を考えていく必要がありますよね。
自分たちを過信せずに現場に通ってたくさん声を聞いて、強みとなる価値に気づいて、それをどう伝えていくか、考えていくのが大事だと思っています。
ため
そうですね。
お店の人に怪しまれるくらい、現場に通いながら(笑)
長岡さん
野球を軸にしながら、野球以外のスポーツや、日常生活の分野にもどんどんチャレンジをしていきます。そこで生まれる新たな価値を見つけて、広げていきたい。
そんなチャレンジのなかで、僕自身もまたガッツポーズをたくさんしたいですね。

ご自身もずっと野球に関わり続けている野球愛の深さもお聞きできました。長岡さん、ありがとうございました!これからもよろしくお願いします。
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この記事は全2回の[後編]です→ 前編から読む

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