3年がかりの大きなDXプロジェクトのはじめ方。コープこうべ浜地さんに、TAM代表が聞いてみた(中編)
生活協同組合コープこうべさん(以下、コープこうべさん)の現在進行しているDXプロジェクトは、全体で3年がかり。関係者は複数の大手ベンダー、ITコンサル、ベンチャーなどで、プロジェクトメンバーは常時30名を超えます。
コープこうべさんからTAMへのご相談は、課題抽出や要件定義を始める前に10年後・20年後のコープこうべのあるべき姿を考えて、コンセプトを一緒につくりませんか?とのこと。
そのために必要だったのは、30名を超えるプロジェクトメンバー全員での「もがき」でした。全員でもがくのは一見効率的でないようにも見えますが、問題点を改善していく、課題を解決していくのではない「もがき」のすすめ方とは…?
プロジェクトの過程と本音をお客様にインタビューすることで、これからの共創のあり方を一緒に考えていく「TAM社長が聞きにいく」。中編では、浜地さんが目指したこと、コンセプトづくりのための「もがき」、協力者の集め方について聞いてみました。
目次
- 前編10年後のあるべきDXのカタチは、フレームワークやロジカルシンキングでは見つからない
- 中編浜地さんが目指した、DXプロジェクトでのコンセプトづくりの「もがき」とは?
- 後編成果物がうまく出来上がらない恐さとの向き合い方は?
記念すべき第一回は、2004年から17年間の長期にわたるお取り組みをさせていただいている、コープこうべの浜地さんと過ごした楽しいひとときをお届けします。
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- コープこうべ
- 浜地研一さん
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- TAMメンバー
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- TAM代表 :
- 爲廣慎二
- プロジェクトリーダー :
- 小栗朋真
- プロジェクトメンバー :
- 飯島章嘉
- 撮影 :
- 藤山誠
- 編集 :
- 佐藤佳穂
浜地さんが目指した、DXプロジェクトでのコンセプトづくりの「もがき」とは?
ため
今回「答えが出なくてもいいから、たのしくやろう」と浜地さんがずっと言っていたのがすごいと思っていましたが、どのように考えていたんですか?
浜地さん
とても長いプロジェクトなので、結論よりも過程を大切にしたいと思っていました。コンセプトブックをつくって「はい、できた。」ではなくて、みんなで真剣に「もがく」ことが長いプロジェクトの熱源になるはずと信じていましたね。
人によろこんでもらうものをつくるためには、まず隣のプロジェクトメンバーをよろこばせることから、と思っていました。
ため
自分たちも相手もおもしろいと思ってやっていなければ、成果につながらないということですね。
浜地さん
サン= テグジュペリの星の王子さまに、「かんじんなことは、目に見えないんだよ」という有名な言葉があります。今回の成果物は大きく2つだと思っていて、実際にまとめた「新しいコンセプト」と、おもしろがりながら真剣にもがくことで得られた「目に見えないもの」でした。
キツネが王子さまに言った言葉ですよね。「…心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。」私も好きなシーンです。
ため
浜地さんの「たのしくやって、よろこんでもらう」の考え方は、いつからそんな風になられたのですか?
浜地さん
何も考えずに就職したんですけど(笑)いきなり阪神淡路大震災があって、ガレキの中いつものように配達に行った先々でよろこんでもらったことが原点です。
あとは、アクセシビリティという言葉もなかった2004年、視覚障害のみなさんと一緒に模索しながら、注文システムを開発したことも原体験ですね。「お店だとサポートがないと買い物できないけど、このシステムなら自分で好きな売り場に行けてうれしい!」と完成時に言ってもらったとき、自分の得意技で人のためになる仕事っていいなって。
複数社の常時30名を超えるメンバーで、共通の敵のような課題が決まっていないプロジェクトを進めるのに必要だったのは「全員の意識を合わせて、同じベクトルへ向かわせるコンセプト」をつくること。
浜地さんが目指したのは、出来上がったコンセプトを提出されることではなく、もがきながらもたのしく考えを発散できたり、「おお〜!」とよろこびを共有できたりする共同作業。そして、そこから生まれる「目に見えない大切なもの」によって、バラバラだった30人以上の意識を合わせていくことでした。
もがくのに必要だった「戦友」思考
浜地さん
記事のために言うんじゃないけど(笑)、まぁTAMさんだし途中ぐちゃぐちゃになっても、最終着地するだろう、と思っていましたね。
小栗
最初、迷走しすぎて浜地さんからは「小栗さんがプールでおぼれているのを、高台でみんなが見ている感じ」とか言われていましたよね。
浜地さん
あのプールのおぼれが重要で。
おぼれるって、生きようと思うから必死なんです。そのまま何もしなかったら死にますから。小栗さんは生きるためにもがいていたと思うんですよね。小栗さんの生きた証。
小栗
なんかこのひと、生きようと必死やな〜みたいな(笑)
浜地さん
一生懸命やってるの伝わりますし、飾りたてないTAMさんらしさですね。今回は戦友みたいな関係の小栗さんたちと、一緒につくりたかったんですよね。話すだけ話してパパっときれいに作ってもらうのは求めてなくて。
小栗
「それはたのしそうやけど、せやないねん!」とか、目の前の人を喜ばせるためのやりとりや話し合いがたくさん必要だったということですね。
確かに、3年がかりのプロジェクト冒頭で「コンセプトはこちらです!」とスピーディーにキレイな提出をされても……本当にこれでいいの?この3年がかかっているんですよ?と思ってしまうかもしれません。そこで必要だったのが「戦友」。
小栗さんが戦友になれた理由は、クオリティの高い提案書や納品物を作ったからではなく、「プールでおぼれている」と言われるくらい、もがいてたくさんやりとりしたから、だったんですね。
協力者の集め方
小栗
・・・こういう話、社内ではどうやって説明したり、協力者を集めたりしているんですか?
浜地さん
やっぱり費用対効果は求められますので、効果が出る部分を別に持っておく必要はあります。
今回のようなコンセプトづくりは費用対効果が測定しづらい分野ですけど、効果が出る部分だけやってしまうと新しい価値は生まれないので「大きな効果の木の下で小さく育てるように」を意識しています。
そのうち小さな花が咲いたら成功体験を内部で共有していくのですが、「協力者に成功体験を持ってもらうこと」を大切にしていますね。自分のチーム内で成功体験を独占するよりも、関係者によろこんでもらうことで後の協力につながりますから。
小栗
そこもやっぱり「目の前の人をよろこばせる」なんですね。
ため
よろこんでもらうためには、伝わらないとあかんですよね。
浜地さん
最近は打ち合わせも対面ではなくオンラインになってますから、伝わることや感じることが難しいですよね。会ってはじめてわかる皮膚から感じる何かとか、こんな毛の生え方なんだという発見とかもない(笑)。
今回のプロジェクトも全部オンラインなので、最初はなかなか難しかったです。
自分のことを伝えたり、メンバーのことを感じる機会として画面を使ったプレゼン型の「自己紹介」は逆にオンラインだから価値が高まったと思います。
ため
ミーティングでやっていた「自己紹介」はやっぱり大事だったんですね!まずは知ってもらわないといけないので。
今回のプロジェクトでは、リーダー小栗の発案で自己紹介タイムを実施。途中、タイムキーパー的観点では本当に必要だったのか不安になりながらも、後から見ると複数社合同30名超えという中では特に、この自己紹介タイムが重要な位置付けだったそうです。
浜地さん
爲廣さんの自己紹介の「ヨット沈没事件」は象徴的でした。あれが出てから盛り上がったので。あのヨットの写真があるのとないのでは全然ちがいますよね。まさに「目の前の人をよろこばせてくれた」です。
ため
ホンマにこれでええんかな〜と思っていましたが、やって良かったです。20年前、和歌山県沖で海上保安庁に救助されたときの様子を共有してみました。
浜地さん
自分のことをいかに相手に伝えるか、という技術はものづくりやマーケティングにも役立ちますから、一生懸命自分のことを伝えようと考えるのは大事なことですよね。
自分のことを話すのは、気恥ずかしさがあったり、「何を話そう?」と迷ってしまったりしますよね。
でも、「小さな成功体験の共有」をして社内外の協力者を集めるには、相手のことを知らないと「どう伝えたら、伝わるか?よろこんでもらえるか?」が分からない、
そして協力を得てプロジェクトを進めるには、自分のことを知ってもらって共感してもらうことから始まる、と浜地さんのお話から改めて学びました。
もがき、戦友、自己紹介。DXプロジェクトにとって意外な話題が続きましたが、成果物としてのアウトプットがちゃんと出るのか?不安になってきました。コンセプトがまとまっていく様子を、後編で見ていきます。
あの時TAMメンバーは、どう思っていた?
浜地さんは、「答えが出なくていいから、たのしくやろう」とおしゃってくださっていましたけど…?
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竹綱かおり(ディレクター)
とはいえ発注いただいているTAMとしては「なんとか、まとめなくては…!」とも話していました。「まとめ方」にずっと悩み続けたプロジェクトでしたね。
私はリサーチフェーズで、インタビューの発言録をとったり、グラフィックレコーディングで毎回の議事録をとる初挑戦をしたりしたのですが…。議事録や発言録といっても、このプロセス自体が全て納品物なので「どうまとめようかな?」と。
「これ、本当にまとまるのかな?」の不安と向き合い続けた結果、プロジェクトが終わった今でも浜地さんが何度もグラレコを見返してくださっているそうで、嬉しかったです。
竹綱さんが挑戦したグラレコ、村上さんが奮闘した懇親会の様子は、本記事「後編」末尾の動画でご覧いただけます。
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村上祐香(ディレクター)
「楽しくやろう」に関しては「TAM、やっぱりおもしろいよね」と思ってもらいたいと意気込んでいました。
私はプロジェクトの中で若手というのもあり、ここで気合いれたい!と思ったタイミングの一つが通常の定例MTGとは別で実施した、アイデア発想勉強会の企画でした。コロナ禍でプロジェクト自体がオールオンライン開催ということもあり、「オンラインでどうやって面白さを出せるか?」、挑戦が多かったです。
暗闇の中を歩いているような難しさのあるプロジェクトでしたが、決められたフォーマットやプログラムの中からは当たり前の答えしか出てこないことを実感しています。